今里の蛇巻き 2008
鍵の蛇巻きと今里のそれは同日に行われる。地図で確認したい人は奈良県磯城郡田原本町で検索してください。
上の写真が蛇の頭、下のそれが胴体。その年の当屋が中心となって前年から作付けした裸麦を刈り取って、新麦ワラで約18メートルの蛇を作る。
この行事は農作物の豊穣を祈るとともに、男の子の成人を祝う農耕儀礼である。
蛇の頭に欅の木を差し、今年の頭持ち(かしらもち)がお酒を振り掛ける。おっさんに「おい、けちるなよ。たっぷり掛けてやれ」と言われ、一升瓶の半分以上を蛇頭に注いだのだった。
この日のメニューは「ゆでたタコ」「なまぶし」「わかめの味噌煮」。うまそう、いいな~。毎年同じ?これは来年も確かめよう。
わかめの味噌煮は村以外のものにもふるまわれ、僕もひとついただいた。もち米のすえでわかめを括りつけていて結構食べにくい。
「まあ、どうぞどうぞ」「ああ、すまんね」
なんか、いいな。こんな光景を見ていると日本酒を飲みたくなっちゃうんだよね。
わかめの味噌煮を嫌がらずに食べている。食べているさまをカメラマンにバシャバシャ撮られていた子供は「お前、有名人やのう~」とからかわれていたが、なんとも子供らしい言い方だ。
さあ、練り歩きが始まった。
練り歩きが始まると設置されたスピーカーから「ただいま、蛇が神社を出発しました(正確になんと言っていたのか忘れたが、こんな感じだったと思う)」と声が聞こえ、村人は家の戸を開けて『蛇』が来るのを戸口で待つ。
鍵の蛇巻きを見に行ったとき、道端で休憩していると近くにいたおばさんたちがこういう話しをしていた。「私は唐古の生まれなんですよ。子供のころ、蛇巻きの行事がある鍵や今里をとてもうらやましく思っていたんですよ。いまは蛇もおとなしいけど、あのころは迫力があって、もう怖くて怖くて・・・。わあ~ん、って泣いてよく家に帰ったもんですよ」
蛇は巡行の途中でしばしば暴れ出す。僕が行ったときは見物客は巻き込まれなかったので、いつのころからか「見物客(村人でも傍らで見ている人も含む)を巻き込まないように」という決まりごとができたのかもしれない。いや、たまたま今年は見物客を巻き込まなかっただけなのかもしれない・・・。
蛇に巻かれるとその一年は無病息災で過ごせると言われているが、子供たちは無事を願うというより蛇に巻かれること自体を楽しんでいた。
このようにずるずると入っていき、頭持ちの「せえ~の!」の掛け声のあとに蛇を担いでいる子供と大人が「おめでとう!!」と大声をあげて祝福する。
何度巻かれても飽きないんだなあ、子供って。
おばあちゃんやおばさんも見守りながら、「私の若いころってね・・・」と蛇巻きの思い出を家で話すことだろう。昔を知っているひとは今の行事はおとなしくて面白みがないと言うかもしれない。
「おばあちゃん、いまはそんな時代じゃないんですよ」と言われるのか、「いいわね~、ものやお金はなかったんでしょうけど、面白い時代だったんですね」と言われるのか。
鼠の天敵である蛇は田を守る神として信仰されただろう、と吉野裕子さんは言う。田植えの頃にこの蛇巻きの行事が行われるのは村人の切実なる祈りがあったにちがいない。村にいるものが共同で行うことによって、村をよくしようという思いもあったのではないだろうか。
この行事に「見立て」の文化の味わい深さをしみじみと感じ、またひとつ奈良にある光を観せてもらった気がする。
※ 今から400年ほど前の江戸時代から伝え続けられてきたこの行事は昭和58年に文化庁から「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に指定されている。
-----------
一週間後。
榎の木に巻きつけられた蛇を見に行った。
↑ 鍵の蛇は頭が下向きになっているので「降り龍」
↑ 今里の蛇は頭が上向きになっているので「昇り龍」と呼ばれる。
鍵の蛇は尾を、今里の蛇は頭をその年の恵方「あきの方」に向けて巻き上げられる。
(おわり)
上の写真が蛇の頭、下のそれが胴体。その年の当屋が中心となって前年から作付けした裸麦を刈り取って、新麦ワラで約18メートルの蛇を作る。
この行事は農作物の豊穣を祈るとともに、男の子の成人を祝う農耕儀礼である。
蛇の頭に欅の木を差し、今年の頭持ち(かしらもち)がお酒を振り掛ける。おっさんに「おい、けちるなよ。たっぷり掛けてやれ」と言われ、一升瓶の半分以上を蛇頭に注いだのだった。
この日のメニューは「ゆでたタコ」「なまぶし」「わかめの味噌煮」。うまそう、いいな~。毎年同じ?これは来年も確かめよう。
わかめの味噌煮は村以外のものにもふるまわれ、僕もひとついただいた。もち米のすえでわかめを括りつけていて結構食べにくい。
「まあ、どうぞどうぞ」「ああ、すまんね」
なんか、いいな。こんな光景を見ていると日本酒を飲みたくなっちゃうんだよね。
わかめの味噌煮を嫌がらずに食べている。食べているさまをカメラマンにバシャバシャ撮られていた子供は「お前、有名人やのう~」とからかわれていたが、なんとも子供らしい言い方だ。
さあ、練り歩きが始まった。
練り歩きが始まると設置されたスピーカーから「ただいま、蛇が神社を出発しました(正確になんと言っていたのか忘れたが、こんな感じだったと思う)」と声が聞こえ、村人は家の戸を開けて『蛇』が来るのを戸口で待つ。
鍵の蛇巻きを見に行ったとき、道端で休憩していると近くにいたおばさんたちがこういう話しをしていた。「私は唐古の生まれなんですよ。子供のころ、蛇巻きの行事がある鍵や今里をとてもうらやましく思っていたんですよ。いまは蛇もおとなしいけど、あのころは迫力があって、もう怖くて怖くて・・・。わあ~ん、って泣いてよく家に帰ったもんですよ」
蛇は巡行の途中でしばしば暴れ出す。僕が行ったときは見物客は巻き込まれなかったので、いつのころからか「見物客(村人でも傍らで見ている人も含む)を巻き込まないように」という決まりごとができたのかもしれない。いや、たまたま今年は見物客を巻き込まなかっただけなのかもしれない・・・。
蛇に巻かれるとその一年は無病息災で過ごせると言われているが、子供たちは無事を願うというより蛇に巻かれること自体を楽しんでいた。
このようにずるずると入っていき、頭持ちの「せえ~の!」の掛け声のあとに蛇を担いでいる子供と大人が「おめでとう!!」と大声をあげて祝福する。
何度巻かれても飽きないんだなあ、子供って。
おばあちゃんやおばさんも見守りながら、「私の若いころってね・・・」と蛇巻きの思い出を家で話すことだろう。昔を知っているひとは今の行事はおとなしくて面白みがないと言うかもしれない。
「おばあちゃん、いまはそんな時代じゃないんですよ」と言われるのか、「いいわね~、ものやお金はなかったんでしょうけど、面白い時代だったんですね」と言われるのか。
鼠の天敵である蛇は田を守る神として信仰されただろう、と吉野裕子さんは言う。田植えの頃にこの蛇巻きの行事が行われるのは村人の切実なる祈りがあったにちがいない。村にいるものが共同で行うことによって、村をよくしようという思いもあったのではないだろうか。
この行事に「見立て」の文化の味わい深さをしみじみと感じ、またひとつ奈良にある光を観せてもらった気がする。
※ 今から400年ほど前の江戸時代から伝え続けられてきたこの行事は昭和58年に文化庁から「記録作成等の措置を講ずべき無形の民俗文化財」に指定されている。
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一週間後。
榎の木に巻きつけられた蛇を見に行った。
↑ 鍵の蛇は頭が下向きになっているので「降り龍」
↑ 今里の蛇は頭が上向きになっているので「昇り龍」と呼ばれる。
鍵の蛇は尾を、今里の蛇は頭をその年の恵方「あきの方」に向けて巻き上げられる。
(おわり)
by charsuq
| 2008-06-10 06:42
| 奈良のこと
|
Comments(2)
いつか また どこかで
by charsuq
トライバルラグの販売サイト
オールド・アンティークのトライバルラグ&テキスタイルを販売しています。非売品もあり、ほとんどは値段を表示していませんが、お気軽にお尋ねください。Gallery Forest
1.私へのメールはこちら。その際はタイトルに「旅と絨毯とアフガニスタン」の文字を入れてください。そうでなければ見ずに削除してしまうかもしれません。
2.写真の無断転載禁止。
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